どーも。
ウエハラです。
いや~
先週9月15日に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)アツかったですね~
男子優勝は、中村匠吾選手(富士通)!
9月15日のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)にて富士通の中村匠吾選手が2時間11分28秒のタイムで優勝し、東京2020オリンピック、陸上競技のマラソン日本代表に内定しました。
富士通は東京2020オリンピックのゴールドパートナー(Data Centre Hardware)です。 pic.twitter.com/pt01wMlpxN
— 富士通(株)FUJITSU Japan (@FujitsuOfficial) September 17, 2019
(富士通公式Twitterより)
優勝候補筆頭だった大迫傑選手、勢いに乗る服部勇馬選手を抑えて、
見事優勝!(2時間11分28秒)
日本マラソン界の頂上決戦で栄冠を勝ち取りました。
おめでとうございます!
さて、みなさんはこの結果を受けてどうでしたか?
意外だったでしょうか?
「伏兵が優勝をかっさらっていった」
「シンデレラボーイだ」
という方もいらっしゃるかもしれませんね。
いや、しかし!
僕は注目してましたよ~
ほらほら。
↓↓↓
勝手に予想&注目選手紹介!【MGCマラソングランドチャンピオンシップ】
MGC前の順位予想記事でも、ちゃんと注目選手に挙げてますから。
(とっておきのマウンティング顔)
まぁ、そんな僕のマウンティングはどうでもいいんですが、
マジで中村匠吾選手は好きな選手なので彼が高校生の時から10年くらいウォッチし続けてるんです。
(1992年生まれの同世代なので、必然的にね。)
今回は、そんなタイムリーな彼を【実績・フォーム・強み】といった点から徹底分析したいと思います。
さらに特筆すべきは、彼が“かかと着地(リアフット、ヒールストライク)走法”でMGCを制した点です。
多くのメディアが大迫選手の“フォアフット(つま先着地)走法”を大きく取り上げる中、
多くのランナーの間で「フォアフット(つま先着地)こそが速く走れる走法だ」という認識が広がっていたところに、“かかと着地”の中村選手がMGC制覇。
数年前に起こった「“つま先着地”か“かかと着地”、どちらが良いのか問題」が再燃しそうな気配ですね。
このあたりも含めて、僕の見解を書いていきたいと思います。
ちょっとマニアックなランナー向けの記事になるかもしれません。
が、今回のMGCで初めて中村選手を知った方、マラソン観戦初心者にもなるべく分かりやすく書けるよう頑張りますので、どうぞよろしくです。
この記事を読んだ方が、これからのマラソン観戦をより楽しめるようになったら嬉しき事この上なし。
中村匠吾選手のプロフィール
【生年月日】
1992年9月16日
【出身】
三重県
【出身校】
内部中(三重)→上野工業高(現:伊賀白鳳高)(三重)→駒澤大学
【自己ベスト】
5000m : 13分38秒93 (2016.9 全日本実業団対抗選手権)
10000m : 28分05秒79 (2013.5 ゴールデンゲームズinのべおか)
フルマラソン : 2時間08分16秒 (2018.9 ベルリンマラソン)
中村匠吾選手の実績・戦歴
上野工業高(現:伊賀白鳳高)(三重)時代 (2008.4 ~ 2011.3)
中村選手は、高校3年時にメキメキと頭角を現し、全国のトップ争いに何度も食い込んできます。
●2010年8月 沖縄インターハイ5000m … 14分00秒98 3位入賞(日本人2位)
この沖縄インターハイ5000m、僕は現地観戦して中村選手の生の走りを見ていましたが、やはり強かったですね。(もう9年前か・・・)
終始冷静なレース運びで後半はしっかりと上げてくる、という中村選手の得意パターンはこの頃から現在まで健在。
この世代で日本人最強との呼び声が高かった西池和人(当時須磨学園高3年・兵庫)とのラストスパート合戦には破れましたが、中村選手もその強さをきちっと証明しました。
●2010年10月 5000m … 13分50秒38 (当時高校歴代7位)
そして、強さだけではなく速さ(記録)の面でも充実しています。
5000mでは13分50秒38を記録し、この世代の日本人高校最高記録をマーク。
(この1ヶ月後、村山謙太選手(当時明成高3年・宮城)が13分49秒45を記録し、世代日本人高校最高記録を更新。)
このままロードでの活躍も期待されましたが、12月の全国高校駅伝では故障明けで奮わず、1区区間44位(31分48秒)。
駒澤大学時代 (2011.4 ~ 2015.3)
村山選手らと共に、5000m13分台ランナーとして鳴り物入りで駒澤大学に入学した中村選手。
大学1年時こそ故障の影響で目立った成績は残していませんが、特に大学3年時以降は破竹の勢いでロードや駅伝で好成績を収め続けていきます。
より印象に残っているレースを2点のみ紹介します。
●2013年全日本大学駅伝 (大学3年時) … 1区区間賞
マラソン前日本記録保持者の設楽悠太選手(当時東洋大4年)との直接対決となったこのレース。
12km過ぎ、ラスト2kmから中村選手は強烈なロングスパートを炸裂させ単独トップに躍り出ます。
設楽選手はこのロングスパートについていけず、中村選手は最終的に2位の設楽選手に30秒以上の差をつけ区間賞を獲得しています。
●2015年箱根駅伝 (大学4年時) … 1区区間賞
駒澤大学主将を務めた大学4年時、最後の箱根駅伝。
中村選手は驚異的な粘りと勝負強さを見せつけます。
これは本当に今まで見たことないくらい凄いレースでした。
ラスト4kmくらいで一旦先頭集団から離れたもののラスト3kmで再び先頭集団に追いつきます。
そこから再び先頭集団からふるい落とされそうになりましたが、やはり先頭集団に食らいつく。
この時点で粘りが凄い。
そして驚くべきことに、ラスト2kmを切って今度は中村選手が自らスパートをかけ先頭集団から抜け出します。
実力者の久保田和真選手(当時青学大3年)が食い下がりますが、ラスト900mくらいから何と中村選手がさらにスパート!
強過ぎる・・・
これには久保田選手もついていけず、中村選手は各校の実力者をねじ伏せ区間賞を獲得。
今回のMGCで中村選手が見せた強さは、まさにこの2015年の箱根駅伝を彷彿させました。
実業団(富士通)入社後 (2015.4 ~ 2019年現在)
実業団の富士通へ進んだ中村選手。
それ以降も、駒澤大学時代の監督・大八木氏に引き続き指導を仰いでいるのだとか。
世界ハーフマラソンの日本代表として2年連続出場するなど、順調に実績を積み上げていきます。
●2017年の日本選手権5000m … 3位入賞
国内トップを決める日本選手権。
この年は、チームメイトの松枝博輝(富士通)、大六野秀畝(旭化成)に先着を許すも、ラスト500mで中村選手が仕掛けたスパートも見事でした。
●2018年3月 びわ湖毎日マラソンで初マラソンに挑戦。
季節外れの高温下でのレースでいきなり日本人トップ(2時間10分51秒)を勝ち獲り、MGC出場権を得ました。
●2019年9月 ベルリンマラソンで2度目のマラソン。
終始単独走という状況にもかかわらず、2時間08分16秒としっかり自己ベストを更新。
これも日本人トップ(4位)。
以上の2レースの結果からも分かる通り、中村選手のマラソンへの適性の高さが伺えます。
それに加え、暑さへの強さや高い調整力、安定感や単独走でも走れる強さなど、かなり中身の良いレース成績を残してきたのです。
●2019年9月 MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)優勝 (2時間11分28秒)←NEW!!
そして、今回のMGCで見事優勝。
東京五輪の代表内定を勝ち獲りました。
タイムだけ見ると、大迫選手、設楽選手、井上選手、服部選手の方が良い記録を持っていましたが、中村選手もそれに負けない実績と良い内容のレースをこなしてきていたのです。
だから、今回の中村選手の優勝は決してサプライズではなく、勝つべくして勝ったのだと僕は思っています。
中村匠吾選手のフォーム【リアフット(かかと着地)】
では、中村選手のフォームの話をしていきましょう。
あ。
ランニングフォームに関しては、本当に人によって様々な考え方があります。
なので、以下はあくまで僕個人の考察ということをご理解いただきたく思いましてござりまする。
「信じるか信じないかは、あなた次第!」というスタイルでよろしくです。
中村選手は、かなり“ミッドフット(中足部着地)”に近い
“リアフット(かかと着地)走法”
中村選手は、かなり“ミッドフット(中足部着地)”に近い“リアフット(かかと着地)走法”です。
良い合宿になりました!
ボディリカバリー飲んで回復します。 pic.twitter.com/B2t65w70ka— 中村匠吾 (@shogorun0916) December 8, 2018
(中村選手のTwitterより)
上の動画では、中村選手がわずかに“かかと”寄りに着地しているのが分かります。
ちなみに、数年前は日本のトップマラソンランナーの多くは“かかと着地”、つまり“リアフット”走法だったので、中村選手の走り方が特別珍しいということはありません。
しかし、近年は大迫選手に代表されるような“フォアフット(つま先着地)走法”が注目され、日本のトップランナー達の間も“フォアフット走法”で走る選手が一気に増えていったような気がします。
世界大会上位を席巻しているケニア人選手の多くも、この“フォアフット走法”を身につけています。
“リアフット走法”は、運動力学上は“フォアフット走法”に比べて非効率的。
そんな中で、「“フォアフット”の方が“リアフット”より速く走れるんじゃないか」という論調が強まってきていたわけです。
なぜなら、世界のトップレベルで走っている選手がほとんど“フォアフット”走法だから。
これに関しては、確かに僕も
「“フォアフット走法”の方が“リアフット走法”よりも効率的な走り方である」
と言うと思います。
なぜならば、「“フォアフット”の方が接地時間が短いから」ですね。
ランニングは、踏み込みで力を地面に与え、地面からの反発をもらい、前に進んでいく動作です。
この一連の動作をなるべく短く、スムーズに行える選手というのが「速く走れる選手」なわけです。
“リアフット”つまり、かかとから接地してしまうと、当然足が地面に接地している時間が長くなります。
かかとから入って、中足部に体重を乗せて、そして前足部(つま先)から地面を押し出していくという流れです。
その一方で、“フォアフット”であれば、いきなり前足部(つま先)から地面に接地し、すぐさま前足部(つま先)から地面を押し出していくという流れになります。
こちらの方が、地面に接している時間が短いので素早く次の一歩に繋げられるという理屈です。
(その代わり、ちゃんとしたタイミングで身体の重心が前方に乗っていないとダメですが。)
しかし、これはあくまで「着地」という側面だけで語れば、ということ。
ランニングフォームというのは本当はもっと複雑で、「着地」のシーンだけでどの走法が良いのかなんて断言することはもちろんできません。
ですが、この辺を詳しく書き出すと、僕の手首が腱鞘炎になってジ・エンドしてしまうので割愛させていただきます。
多少非効率的な走り方でも、自分のコントロール可能なペース域であれば、余裕を溜める走りができる。
そんな「非効率的な走り」であるはずの“リアフット走法”でなぜ中村選手は今回のMGCを制することができたのでしょうか?
それは、僕の考えで言うならば、
「ラスト3km地点で、他のどの選手よりも圧倒的に余裕を残していたから」
です。
今回の MGC優勝タイムは2時間11分28秒(平均ペース約3:07/km)。
自己ベスト記録が2時間08分16秒(平均ペース約3:02/km)の中村選手にとっては余裕を持って走れるペースだったと思います。
[参考記事]
MGCマラソングランドチャンピオンシップ2019 結果(ラップタイム)
(日本と世界のマラソン)
そして、この余裕を残せるペース、つまりその人がコントロールできる範囲のペースであるならば、多少非効率でも自分が一番ラクに走れるフォームで走っていれば問題ないわけです。
今回の中村選手の場合は、彼にとって完全に余裕を残して走れるペースでレースが進みました。
他選手もペース的には余裕があったかもしれませんが、暑さや小さなレース展開の変化によって消耗し、結果的に中村選手が一番省エネでレースを進めることができたのです。
そして、ラスト2kmであの鮮やかなスパート。
ラスト1kmで大迫選手に追いつかれてからもさらに2段階目のスパートで大迫選手をねじ伏せて勝ち切りました。
さらに、彼のような“リアフット走法”かつ大きいストライドでガシガシ前へ進んでいくフォームを実現するには相当な脚力が必要です。
そんなとてつもない脚力を要する走り方にも関わらずフルマラソン42.195kmを余裕を持って走り通すということは、きっと中村選手はとんでもない量の練習を積んできたのだと思います。
いくら運動力学的に「“フォアフット走法”の方が効率的」と言われても、その人自身の体格や筋力量に合っていない等の理由によっては、必ずしもそれが最適解の走り方とはなりません。
今回、中村選手は自身がラクに走れるペースを底上げしたことで、最後の勝負所まで余裕を残して勝ち切る事ができたのだと思います。
中村匠吾選手の強み&戦い方
では最後に、中村選手の強みと戦い方を、謎に上から目線で申し訳ないですが書きたいと思います。
勝負勘の良さとラスト2~3kmで勝ち切る強烈スパート
やはり一番の強みはここでしょう。
駒大3年時の全日本大学駅伝で見せたあのロングスパート。
駒大4年時の箱根駅伝で見せたあの驚異の粘りと3段スパート。
そして、今回のMGCラスト2kmで見せた、日本記録保持者をもねじ伏せる強烈なラストスパート。
とにかく、勝負勘が素晴らしい。
冷静にレースを進めて余裕を残しながら走るクレバーさ、そしてラスト2~3kmのロングスパートでしっかり勝ち切る強さを中村選手は持っています。
今回のMGC、中村選手のラスト2.195kmのラップタイムは6分18秒。
これは世界でも十分通用するレベルです。
東京オリンピックでもこのスパート力をぜひ発揮して欲しいところですが、
そのためには、後半の勝負所でどれだけ余裕を残せているかが鍵ですね。
暑さへの強さ
酷暑が予想される夏の東京オリンピック。
そこで世界と戦う上で、中村選手の異常なまでの暑さへの耐性はかなり大きなアドバンテージとなりそうです。
中村選手は暑い中で走っても発汗量がそれほど多くないそうです。
これは、豊富な練習量をこなせるランナーの特徴ですね。
今回のMGCでも、中村選手が終盤で他選手より余裕を残せた原因はこの暑さへの強さも大きかったと思います。
東京オリンピックでも、持ち前の暑さ耐性でしっかり粘って夏のサバイバルレースを終盤まで生き残り、鮮やかなロングスパートで上位に食い込む。
そんなレース展開も十分に期待できます。
まとめ
じゃあ、まーとめ。
〈中村匠吾選手のスゲーところ〉
① 安定感抜群。毎回中身の良いレースをする。
今回のMGCで勝ったことは全然不思議ではない。
② “リアフット(かかと着地)走法”のランナー。
運動力学上は非効率だけど、それを覆すほど凄まじい脚力の持ち主。
③ ラスト2~3kmの強烈なロングスパートは世界で通用するレベル。
余裕を持って終盤を迎える事ができれば面白い。
マラソン観戦を楽しむ上での良い知識になれば幸いです。
ではでは、今日はこの辺で。