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オピニオン Opinion

【陸上長距離界に激震】日清食品陸上部、大幅縮小。これからのランナーの社会的価値を考える

2019年1月11日午前5時。

日本の陸上長距離界を震撼させるニュースが流れた。

『日清食品陸上部が大幅縮小、佐藤悠基と村沢明伸以外12選手退部へ…2選手は内定取り消し』

2019年1月11日5時0分  スポーツ報知

僕は普段あまりニュースをブログの話題にすることはないのだけれど、今回ばかりは僕が日頃考えていることとリンクすることも多々あったので、こうして記事にすることにした。

◆どれくらいの衝撃か

まず、このニュースがどれくらい衝撃的なものかということを述べたい。

それは、日清食品グループという実業団は、日本を代表する駅伝の超強豪チームということだ。

日清食品グループ陸上競技部@nissinrikujo

今年もたくさんのあたたかい応援をありがとうございました。
どうぞ良いお年をお迎えください。

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元日ニューイヤー駅伝(実業団の駅伝日本一を決める大会)では、優勝2回(10年、12年)を誇る。

また、東日本実業団駅伝でも優勝6回の実績を持つ。

さらには、日本を代表するエリート選手が集まる実業団チームとしても有名で、箱根駅伝などで活躍した華のあるランナーが多く所属する。

マラソン日本記録保持者大迫傑選手も大学卒業後1年目はこの日清食品グループに所属していた。

今回のニュースでは、圧倒的な実績を持つ佐藤悠基選手(日本選手権10000m4連覇)村澤明伸選手(北海道マラソン2017優勝、MGC出場権獲得)の2選手のみ退部勧告はされなかったとのこと。

佐藤選手と村澤選手以外の選手12名退部勧告

内定者2名内定取り消しになったとのことだ。

ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)優勝2回などを誇る強豪の日清食品グループ(G)陸上部が活動を大幅に縮小することが10日、分かった。9月に行われる20年東京五輪マラソン代表選考会(MGC)の出場権を持つ佐藤悠基(32)と村沢明伸(27)を除く12選手に退部を勧告。今春入社予定だった大学4年の2選手に対しては内定取り消しの連絡を行った。


2019年1月11日5時0分  スポーツ報知

しかし、ここで伝えておきたいのは、今回退部勧告を受けた12名の選手競技的な実績は素晴らしいということである。

小野裕幸選手は、順天堂大学時代には全国トップクラスのランナーとして活躍。
2015年の日本選手権5000mでは4位入賞した選手。

戸田雅稀選手は、2016年の日本選手権1500m優勝
2017年のニューイヤー駅伝1区でも区間賞を獲得した選手。

中谷圭佑選手は、西脇工業高校時代都道府県男子駅伝2年連続1区区間賞
駒澤大学時代もチームのエースとして活躍した選手。

などなど、華々しい選手ばかりが所属しているのだ。

そんな実績抜群の選手達でさえ退部勧告を受けたということがかなりの衝撃だったというわけである。

◆プロランナーが走ることの社会的価値とは何か?

このニュースを受けて、ただ単に

「やっぱり実業団は厳しいよねぇ」

「実業団は実力主義だからねぇ」

という言葉で終わらせるわけにはいかない。

ここでの本質的な問題は、

「実業団ランナーやプロランナーは、“走ること”で社会にどのような価値を与えることが出来るのか」

ということになるだろう。

例えば、先に上げた選手達。

彼らは確かに競技的には素晴らしい結果を残している。

長らく陸上界を見てきている人であればそれを評価してくれるだろう。

陸上関係者の間ではそれなりに知られているだろう。

しかし、世間一般的にはどうだろうか。

日本選手権で何連覇したとか、何位入賞したからといって、ランナーではない一般の方がその選手のことを知っているだろうか。

否。

一般人はそんな実績など全く知る由がない

それどころか、陸上関係者ですら、コンスタントに実績を残している選手でなければその記憶には残らない

たとえ、オリンピックに出場したことのある選手ですら、数年も経てば人々の記憶は薄れていく

日本のプロランナー(主に実業団ランナー)は、基本的には所属する企業の名前を公告するために走っている

どれだけの広告効果があるのか。

それがプロランナーの経済社会における価値である。

(もちろん走る価値はそれだけではないが、ここではひとまず経済的な価値に焦点を置くことにする)

オリンピックに出れるか出れないかくらいの選手が果たしてどれだけの広告効果を生むだろうか。

駅伝で走りはするけれど、テレビにも映らない選手が果たしてどれだけの広告効果を生むだろうか。

甚だ疑問だ。

広告効果がないのであれば、そのランナーは首を切られる。

ビジネス的な観点で言えばそれは当たり前のことなのだ。

◆プロランナーは競技力だけが求められているわけではない

その一方で、めちゃくちゃ広告効果を上げている一般のいわゆる「市民ランナー」がいる。

日本で最も有名な「市民ランナー」と言えば、やはり川内優輝選手だろう。

最強の公務員ランナーと言われており、その辺の実業団ランナーを次々と打ち負かしていくレベルだ。

(ただし、2019年度以降はプロ転向を表明している。)

彼が持つ広告効果はとんでもないものだと思われるが、公務員という立場上、スポンサーからの収益を得ていない

また、彼個人も自由な走り方をしたいため、来春以降プロとして活躍する上でもメインスポンサーとの所属契約はとらない意向だという。
(2018年8月時点)

『来春プロ転向、マラソン川内優輝がスポンサー選びで重視すること』

話は少々逸れたが、経済社会におけるプロランナーの価値は広告効果である、という前提条件に立てば、川内優輝というランナーは 日本の実業団チームに属する多くのランナーよりも 社会に与える影響が大きく、価値があると言えるだろう。

高い競技力のみならず、その発言や行動の一つ一つが注目される彼は、“マラソン界のインフルエンサー”である。

川内選手に限らず、昨今では、SNSやブログなどで積極的に情報を発信する「市民ランナー」がたくさん現れてきた。

彼ら彼女らのSNSのフォロワー数1万人を超えていることはざらで、自分や他社の商品をバンバン売り上げている人もいる。

ではそんな市民ランナーと、特筆すべき競技実績を持たない上に、SNSのアカウントすら持たず情報発信をほとんど行わない実業団ランナーを比較したらどうだろうか。

フォロワー数が多く、情報発信を頻繁に行う市民ランナーの方が、遥かに市場価値の高い人材と言えるのではないか。

もはや、広告宣伝と言えば、「競技力を上げて、テレビに出て速く走ること」だけではなくなった。

“競技力”だけがランナーに求められる時代は終わった

個の発信力が大きな力を持つ時代では、SNSであれ、ブログであれ、動画メディアであれ、あらゆる形で社会に影響を与えることが出来る。

“競技力”が高くないランナーでも、やり方次第では大きな広告効果を持ち、経済価値を生むことができるようになった。

実業団ランナーやプロランナーは“自分が走ることによって生じる社会的な価値”を再考すべき時期に差し掛かっている。