◆9ヶ月後の告白
今更ではあるが。
9ヶ月前の3月14日のこと。
僕は南米コロンビアで犬に噛まれた。
もう一度言う。

・・・南米コロンビアで。

・・・犬に。

・・・噛まれた。
9ヶ月後の告白である。
◆コロンビアでは犬の放し飼いが珍しくない

コロンビアでは、犬が放し飼いされている光景をよく見かける。
特に郊外では、野犬が多く、飼い犬か野犬かの区別がつきにくい。

今回、僕が犬に噛まれたのはビジャデレイバといういわゆる田舎。
とはいえ、首都ボゴタから近く、国内ではそこそこの観光地。
町中の犬達も人には慣れている様子で大人しい。

そんなビジャデレイバで朝のランニング中、それは起こった。
前方50m先に見える犬がこちらを見ている。
なんだか嫌な予感。。。
数秒後。
僕の嫌な予感は見事的中し、その犬はけたたましく吠え始め、僕をめがけて走り出した。
やはりこの犬も紐で繋がっておらず、文字通り放し飼いだったのである。
なんかねえ、もう一目見ただけで分かるのだが。
本能のままに僕を襲う気満々のようだ。
ビックリさせてしまったのは申し訳ないと思うが、こちらとて悪意はない。
いきなり敵意丸出しで追いかけられても困るわけで、心外なわけで、しかし話が通用する相手でもない。
仕方なく、このまま走って逃げきってしまうしかない。
そうして、コロンビア犬と僕のマッチレースが始まった。
だが、正直、逃げ切る自信はあった。
これまでも何度か犬に追いかけられたことはあったが、その経験から言えることは奴らにはスタミナがないということだ。
こっちが数100m程度でもダッシュで走り続けていれば、向こうは諦めることがほとんどだ。
しかし、ここで誤算があった。
相手は1匹ではなかったのだ。
最初の1匹が吠え出すと、あちらこちらからほかの犬たちがその姿を現し始め、僕の方に吠え出した。
おやおや。
瞬く間に、奴らが徒党を組んで僕の目の前に立ちはだかった。
その数5~6匹ほど。
例に違わず、みな放し飼いである。
さあ、その集団の犬たちが、右から左から前から後ろから、一斉に僕を追いかけ始めた。
奴らは僕を囲い込むように追い立てる。
狩り。
これぞ、本来の彼らの狩りスタイルだ。
などと妙に感心しながら、僕は5~6匹の犬達に四方八方を塞がれてしまった。
そして、その内の1匹に右膝の裏をガブリ。
狩り。
彼らは遥か遠く日本からやってきた丸腰ランナーの僕を狩った。
彼らの野生の本能を目覚めさせてしまった僕は罪深い。
「こいつら本当にやりやがった」
少しカチンときたが、今のままでは劣勢。
ひとまず、ここから逃げねば。
僕はそのまま数100m程走り続け、犬達の猛追から逃げた。
するとやはり、彼らは長時間走り続けることはないようだ。
そのまま走り続け、僕は何とかその犬達の集団を振り切った。
しかし、ここで第2の誤算が発生した。
さらに50m先にまた犬の狩り集団がいたのだ。
これまた、5~6匹ほど。
引き返そうかとも思ったが、すぐ後ろには先ほど振り切った犬たちがまだこちらに向かって吠え続けている。
このまま、前に走り続けるしかない。
今度は先ほどよりもギアを数段挙げてダッシュした。
100m程だろうか、今度は囲まれる前に逃げ切ることができた。
そして、自分でもビックリするくらいのスピードで走れたので、やっぱり火事場のバカ力って凄いのかも。
そうして、いきなりインターバルトレーニングをこなしたところで、この日のランニングは終了した。

それにしても、やりやがったな。奴ら。
いくぶんの時間差があった後で、噛まれた膝裏の傷がジクジクと痛む。
◆狂犬病って何?
海外で犬やら猫やらに噛まれた時、やっぱり心配になるのは狂犬病だ。
日本国内では撲滅したと言われている狂犬病。
日本ではあまり馴染みがない人の方が多いかもしれない。
そもそも狂犬病って何ぞや?というと。
●発症すると致死率ほぼ100%という恐ろしい感染症。
●潜伏期間は1~3ヶ月間。
●日本、オーストラリア、ニュージーランド、英国など一部地域を除き、ほぼ全世界で発生している。
●犬だけでなく、猫、コウモリ、アライグマといった野生動物も感染源。
●毎年世界中で5万人以上の死者を出しており、その95%以上はアフリカ、アジア。
参考:ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8B%82%E7%8A%AC%E7%97%85#cite_note-9
僕もコロンビアで犬に噛まれるまでは、狂犬病について大した知識を持ち合わせていなかった。
しかし、犬に噛まれてから狂犬病についていろいろ調べていく内に上記のような情報が出てきてだんだん怖くなってくる。
なんて言ったって、発症したら致死率100%である。
◆治療と狂犬病ワクチン

噛まれた当日、すぐに現地の病院へ行った。
噛まれた直後の処置が大事である。

コロンビアはスペイン語圏。
僕の片言で語彙力の乏しいスペイン語では、現地病院にかかるのは困難が予想された。
そこで、宿のスタッフであるベネズエラ出身のナイスセニョリータが助けてくれて、病院まで同行し通訳をしてくれた。
(彼女は英語が堪能なので本当に助かった。)
ていうか、コロンビアで出会った人はみな本当に良い人過ぎた。

人生で初めて、海外で病院に行く。

傷口を消毒してもらい、破傷風予防の注射を打ってもらう。
傷は割と深い。
消毒の痛みに悶えた。
でも、あれ?
狂犬病ワクチンは?
と思ったのが、現地のお医者さんによると狂犬病ワクチンは必要ないとのこと。
…いやいや、本当か?
なんでも、この地域では犬に噛まれるのは割と日常茶飯事らしい。
とはいえ、やはり狂犬病が心配なので、日本に帰国後、狂犬病ワクチンの曝露後接種を受けた。
ちなみに、狂犬病ワクチンの曝露後接種は6回接種する必要があり(日本製ワクチン)、
しかも長期にわたって接種しなければならない(当日、3日後、7日後、14日後、30日後、90日後)。
なかなか時間とお金のかかる治療なので大変だ。
狂犬病は潜伏期間が1~3ヶ月間と言われているので、帰国後3ヶ月間は心のどこかでずっとソワソワしていた。
なんて言ったって、発症したら致死率100%である。
発症したら、流石に笑い話にはできない。
ひとまず3ヶ月というラインは無事に過ぎたのでほっとしているところである。
今回の件で大げさかもしれないが、人生いつ終わるとも分からない、ということが改めて認識させられた。
こういうこと(海外で野犬に噛まれた出来事)を話すと、
「ほら、言わんこっちゃない。海外はやっぱり危険なんだ」
と言う人が現れそうである。
さらには、南米コロンビアという日本からの心理的距離感が大きい国に至っては、その国に対するネガティブイメージが湧いてしまうかもしれない。
しかし、ここで勘違いしてほしくないのは、海外だから、南米だから危険だというわけではないということだ。
日本にいても危険なことはたくさんあるし、病気にかかる可能性もあれば、不慮の事故に見舞われる可能性もある。
日本と海外、どちらが安全か危険かなどという話ではない。
ただ、文化や環境の異なる異国の地では特にリスクヘッジに気を遣うことは大事だとは思う。
というわけで、海外に行くときは動物との接触に十分注意しよう。
あと、曝露前の狂犬病ワクチンを接種しておくことはおすすめ。
でも、いろいろあったけど、本当コロンビアは良い国。
これ本当。